スリランカの大富豪(その2)〈22〉

  パーティー地獄は、僕に借金の取立てを忘れさそうとして仕組まれたわけでは決してなく、どうやらそれはスリランカ大富豪流の客人へのモテナシのようだった。そんなわけで僕はVIPとして大事にあつかわれ、それはそれはありがたい生活をおくらせてもらった。
  でも貴族生活ならではの不満もあった。誘拐されるからと一人で外出はさせてもらえず、近くを散歩する時もチリチリ毛のスリランカ人が監視役として常について来るのだ。こんなんじゃスリランカの女をいてこます事もでけへんがな!と、猫タイプの僕としては、けっこうストレスがたまってきた。それだけじゃなく連日のパーティーのためお腹も出てきたし、血中にたまったアルコールとアセトアルデヒドの量は最高値を示し、なんだか体中が気持ち悪い。そんなわけで僕はスポーツマンである自分を思い出し、ジョギングなんてしたいなあと思ったわけだった。
  「アナンダ。ジョギングしたいんだけど一人で走りにいってもええかな?」すると。

  「あっかんよお! 誘拐されたらどうすんねん。うちは金持ちやからジョギングなんかせんでもエエんや」

  と、えらく叱られた。理屈がよくわからん。スリランカの大富豪・・・。

  そんなことを言いながらもアナンダ自身はどっぷり金持ち生活をしているために実は持病を持っていた。(薬を飲みながら)「私はね。トーニョーの病気。だからお薬飲んでるの」まああんな生活してりゃ当然やわなあ
  「アナンダもたまには運動したら」

  「うちの倉庫にはトレーニングマシンが4台もあんねんで!(かなり自慢げな口調)」

  どう返したらエエねん。あんた。そら使わな意味ないやろ。

  とまあわけのわからんことを言うアナンダなのだけど、性格は温厚でとても優しく、親友の弟としての僕を心から歓迎してくれ、気に入ってくれた。そしてある日こんなことを言った。

  「たくろうさん。もうなあ。日本に帰えらんでエエよ。うちの嫁さんの妹と結婚したらエエがな。ずっとここにおりいや。うちは金持ちやから心配ないでえ」

  その夜の夕食パーティーには、さっそく奥さんの妹が登場して、なにやら変な雰囲気となった。みんなが妙によそよそしくて、お見合いみたいな匂いがしたのだ。でも・・・。

  ああ。あの人が美人だったら、今ごろ日本でバーなんてやってなかっただろうに!

  というわけで急に借金取立人の使命を思い出してしまった。僕はようやく取立人としての職務を遂行するため立ち上がったのだああ。
  でも「来月うちの人間が訪日する時に必ずお返しします」と言われ、「ああそうですか」と簡単に引き下がってしまった。まあ悪い人たちじゃなさそうだし、嘘はつけへんやろ。いずれにしても長い放浪旅行のため僕はとんでもない役立たずになっていたのだった。
  それにしても監禁状態の北京ダックみたいな生活はけっこう辛かったこともあり、僕はまだまだ独身でいる意思を伝え、東海岸のアルガンベイでサーフィンをするためスタコラサッサと大富豪邸からの脱出に成功した。
  つかの間の貴族生活は面白かった。でも、送り迎えも監視もなくなって自由な空気は爽快に感じ、体中のアセトアルデヒドの発散が最高に気持ちよかった。
  奥さんの妹さんが美人じゃなくって本当にああ良かったなあ。