「遊び」が世界最高の自動小銃を実現した

「AK47」はAKB48とは何の関係もなくて、ソ連製の自動小銃のことである。設計者の名前にちなんで愛称を「カラシニコフ」という。コピー品も含めると「世界で一番たくさん生産された銃」というだけあって、性能が尋常じゃない。寒冷地や砂漠の過酷な気候でも正常に作動するし、泥水に浸かっても戦車に轢かれても!故障することなく射撃ができると言うスーパータフネスな自動小銃なのだ。
1949年に生産が開始された「AK47」は、ベトナム戦争でソ連の支援を受けた北軍の兵器として大活躍した。南軍が使用した同レベルのアメリカ製の自動小銃「M16」は命中精度は高かったものの、熱帯のジャングルにおけるゲリラ戦では「AK47」に歯が立たず、南軍つまりアメリカは史上最大唯一の敗北を喫した。ベトナム戦争は「AK47」と「M16」の機能差が、その明暗を分けることになったのだ。
ところでこの「AK47」の強靭な耐久性の秘密は、「各部品の間に設計上のクリアランスを意図的に設けた」ことによるらしい。つまり、設計者カラシニコフさんは、灼熱や超低温での金属膨張や変形、野戦での水や砂やホコリの混入を想定して、わざと機関内にユルユルの「工学的な遊び」を作ったと言うのだ。AKB48の握手会で顔をユルユルにしているオッサンと共通項がありそうだけど、やっぱり全然関係ない。

 

プーリーの「遊び」が変速機を高める
なるほど「遊び」が自動小銃の機能を高めるのなら、自転車でもあるかと考えた。
ちなみに僕は昔「サンツアーの前田工業」という不思議な会社に勤めていた。過去に長くシマノのライバルとして自転車部品を生産していた会社だ。そこでは社員の多くが、「仕事してるのに遊んでいるように見え」または「遊んでいるように見えて実は仕事をしていた」と目された。僕はそんな環境の中で、遊んでるようで?仕事しながら?自転車に対する造詣を深めることができたのは幸せであった。ちなみに先のページの山崎さんもそうだ。
「シュパーブプロ」というのは伝説的なコンポーネントで、まさにデュラエースと対峙するモデルだ。デザイン的にも精度の高さでも、そしてカリスマ度もデュラエースを凌駕していたシュパーブプロだが、Rメカの調整具合がどうもいただけなかった記憶がある。調整幅がピンポイントでセッティングに時間がかかるのだ。一方のデュラエースのRメカはワイヤーを張った時点で既にシフト位置が完璧で調整ボルトを触る必要もなかったほどだ。
理由は、デュラエースのRメカのガイドプーリー(上の方の奴)が左右に動くように「遊び」を持って設計されているからだった。これはシマノのパテントで当時のサンツアーはマネが出来なかった。当時の自転車屋さんに言わせると「シュパーブはとても良い部品だと思うけど、調整に時間がかかるからシマノを選ぶ」と。そんなわけもあって前田工業はなくなった。遊び心あふれる人々が集まっていたはずなのに、プーリーの「遊び」が作れなかったとは、ああ悲しや。

 

左右の可動域に「遊び」のあるサドルとは?
現在のビンディングペダルは、クリートによって、「固定」「1°遊びアリ」「3°遊びアリ」
と選べるから便利になったもんだ。1984年に「ルック」が発表した「PP65」は、ツール五勝のベルナール・イノー御用達で「ビンディングペダル当たり前時代」の幕開けを告げたけれど、クリートには完全固定モードしかなかった。それによって多くの選手が膝の痛みを抱えたもんだ。その後、「タイム」が大きな遊びを持って左右に旋回するペダルとクリートを世に出したのは画期的な出来事で、それが現在に繋がっている。
タイムの「遊びがあるペダル」の登場に刺激を受けて、「左右に旋回可動域の遊びを持つサドル」というアイデアが過去にいくつか考案されているが、こちらはマダマダ完成と成熟に時間がかかるようだ。
そんなわけで、自動小銃から変速機、ペダルやサドルまで「遊び」なくして、高レベルの工業製品は成り立たない。さらに強いて言えば、タイヤのグリップ性能や、チェーンオイルの油膜の厚さや、フレームやホイールのシナリやネバリさえも、「マン・マシン・インターフェイス」で言うところの「遊び」に他ならないのだ。
「遊び」を大事に考えよう! もちろん人間のパフォーマンスあってこそだから、機材だけじゃない。心の遊びも大事なのだな。とすれば、やっぱりAKB48の握手会とカラシニコフは関係ありなのかあ。