<シュノーケリングで島を半周泳いだ話>〈24〉

  旅して、いろんな美しい風景を見た。ヒマラヤの絶景は僕の気持ちを神秘的にしてくれたし、タイのトレッキングで巡った少数民族の村々のウッソウと茂るジャングルもまた僕の心に刻まれている。
  でも一番印象的でエキサイティングで美しかったのは、マレーシアの小さな島プルフンティアンをシュノーケリングで半周したことだろう。
  プルフンティアンはシャム湾に浮かぶ辺鄙なリゾートで、バンガローと小さなレストランが数件並ぶだけの自然に恵まれた南洋の楽園だ。島の形はちょうどヒョウタンのようで、つまりそこはマレーシアの「ひょっこりヒョウタン島」と呼べるようなところだった。
  僕は、約2週間その島で楽しく過ごした。ギターを弾いたり、イギリス人たちとトランプ大富豪(イギリスとルールはほとんど同じだったみたい)したり、マジックで落書された白い子猫と遊んだり、夜のビーチでカニを捕まえたり本当に楽しい日々だった。バンガローはビーチに面していて、部屋でゴロゴロしている時に急に海に飛び込みたくなれば早朝でも夜中でもフルチンのまま波と戯れる事ができた。プルフンでフルチンとはこれいかにである。(イスラム教の国だから、ほんとはフルチンはとてもよくないことなのですが)
  プルフンティアンの海の中は最高に美しくて、水中メガネとシュノーケルをつけて潜りだせば、たちまち数万匹の小魚の群れの中にいる自分を発見することが出来た。上を見ても下を見ても左右を見ても視界はすべてが小魚の群れで、彼らは僕から微妙な距離を取りながら、しかし決して逃げることなく僕を自然の一員として受け入れてくれた。
  岩場に近づけば蛍光色に光るシャコ貝がこんにちはと囁きかけてくれ、大きなイカがシュパシュパと泳いでいく。
  僕はうれしくて、泳ぎながらどんどんと行動範囲を広げていった。

  行けるところまで行ってみよう

  ビーチの端にある岬を越えて隣の入江に入った。そこからは僕の泊まっているバンガローを含めすべての人工物が見えなくなった。なんだかすごく遠くへ来たようで不安にかられたけれど、その入江のリーフには更にたくさんの海の友達が僕を待っていた。
  砂の中から突然現れたブルーの斑点を持ったエイに驚ろかされた。1mぐらいのサメが僕を見て逃げていった。ウチワエビみたいなのが岩場に隠れるのを見た。直径50cmぐらいのタコクラゲがUFOか宇宙船みたいに海中に浮かんでいた。水深2~3mぐらいのリーフには太陽の光がキラキラとちりばめられ、小さな海の生き物が光の粒とかくれんぼを繰り返していた。
  僕はとんでもなく有頂天になって、ますます冒険心の塊となった。そして考えた。

  島を泳いで半周できるだろうか

  バンガローの村はヒョウタンの首の部分にあるので、村の反対側まで泳ぎ着けば山道を10分ほど歩いて帰れるはずだ。きっと冒険心の充足と疲労感によって美味いビールが飲めるに違いない。そんなわけで僕は、一周約8キロほどの島を半周するシュノーケリングの旅へと誘い込まれていった。

  それは素晴らしく美しい、そしてエキサイティングな冒険だった。

  岩陰を回ると十数匹のナポレオンフィッシュが海中に浮かんでいた。壮観だった。ウミガメが近寄ってきたので甲羅につかまった。水中スクーターみたいに引っ張ってもらった。ウミガメはメチャメチャ迷惑がっていたけれど、たまらん面白い体験だった。
  また、ある入江には小さな白砂の砂浜があり、上がって休憩をした。よく見るとその砂浜は周りを崖に囲まれていて陸からはたどり着けないように見えた。つまりその浜は海からしかたどり着くことが出来ない所みたいなのだ。ゴミ一つないその浜辺で僕はしばらく瞑想をした。

  有史以来この浜辺でたたずんだのは僕で何人目だろうかなんて思った。

  コワイ思いもした。ある岬を曲がると、底が見えないほどのドン深になっていた。底に未知の生物が僕を狙っているような気がして不安になって泣きながら泳いだ。
  その後、数万匹の黄色と黒のマダラ熱帯魚の群れが浮かぶ空間を泳ぎぬけると、バンガロー村の反対側の集落に到着した。時刻は夕刻前だった。小さな岡を超えてバンガローにもどると、僕はイギリス人やマレー人に、島を泳いで半周した武勇伝をビールを飲みながら喋りまくった。でも彼らは冷ややかにこう言った。

  「お前はアホか。この島の周りには流れが速いとこがたくさんあって、一人でそんなことして、もし流されたらどうすんねん。それに大きいサメに襲われても誰も助けてくれへんぞ。何を自慢しとんねん。危ないやろ」

  確かに誰に告げず、人気もない海中をさまよったのは危険でうかつに違いない。でも、いくら怒られても僕はその夜トンでもなく嬉しかった。なんせたった一日のうちに、サメとカメとイカとエイとナポレオンフィッシュとタコクラゲとシャコ貝と小魚と熱帯魚に出会うことが出来たのだ。それが危険なことなら、なおさら生きてここでビールを飲んでいるのが嬉しいと思ったのだ。
  でも、よいこの皆さんはマネをしてはいけないと思います。
  アホな冒険の報告でした。