プリーの浜辺でプリプリ〈28〉

  インドの東海岸。カルカッタの南約400kmにプリーというところがある。何があるというわけではないのだけれど、海岸沿いの静かな町でヒッピー風のバックパッカ-が連泊してゴロゴロ出来るようなゲストハウスが立ち並んでいた。その町には驚くべきことに「マリファナの政府販売所」(みんなはガバメントショップと呼んでいた)なんていうのがあって適正価格で品質のよいマリファナを政府のお墨付きで買えた。もちろん政府公認だから捕まる事なんてありえないのだ。
  うらびれた小屋で汚いオッサンが一人でやっていたのだけど、しかし本当にあれ「政府の販売所」なのかなあ。今でも疑問に思います?・・・。
  いずれにしても、そんなわけで同じ宿に泊まるヒッピー達の中には朝から晩まで煙にまみれてラリっている人もいて、ゲストハウスはマリファナ天国のようだった。
  僕はというと、午前中は当時書きはじめたばかりの「ヴィシュヌ牛太郎の功績」を執筆し、昼飯を食べたら夕方まで歩けるだけ散歩をして、夕食が終わってからヒッピー達に混じって煙にまみれるという毎日で、執筆活動的には完璧な、村上春樹のような生活をおくっていた。

  プリーの生活で楽しかったのはマリファナを吸うことよりもむしろ散歩の方だった。特に印象に残っているのは、浜辺を散歩していたときのこと。漁師達が海から帰ってきたところらしく、浜にはたくさんの船が乗り上げられていて、いろんな種類の魚が水揚げされていた。

  見ると漁師達の多くが渚に足首までつかって水平線を眺めながらプリプリとウンコをしているではないか。プリーでプリプリとはこれ如何にである。

  見ていてとても爽快な風景だった。ルンギーを腰まで捲り上げて遥か海の彼方を見つめて脱糞する何人ものインド人。軽く打ち寄せる波に落ちたウンコはしばらく渚を漂うと大海原の懐へと消えていく。次の波でオシリをすすぐと彼らは何もなかったように浜辺へ上がり、魚の仕分けや船の手入れへと戻っていく。
  素晴らしい光景だと思った。

  自然と密着した生きるものの聖なる姿。それになんということかウンコしながら眺める先は大きな海であり水平線の彼方なのだ。

     僕はワクワク感を隠せず、ムクムクと便意をもよおした。(考える日記37参照)
  でも、ふと横を見ると日本人旅行者の女の子が数人いて「いや。見て。インドのひとウンコしてやる」的にたたずむ。
  そんなわけで僕は高揚感にもかかわらず、ウンコする勇気を失ってしまった。まだまだ修行が足りないと思った海沿いの町の出来事だった。