スリランカの大富豪(その1)〈21〉

  僕は世界を旅しているあいだ消息を日本の家族に伝えるため時に兄貴とメールのやり取りをしていた。そんなインドの東海岸を南下しているときのこと、兄貴からこんなメールが入った。
  「そこからスリランカは近い。渡って取引先であるアルナシリ・トレーディングから約50万円なりの貸付金を徴収してきてくれ」
  兄貴は自分で小さな貿易関係の会社などをやっていて海外に日本の中古車や中古の家電製品などを輸出していた。スリランカのアルナシリ・トレーディングはお得意さんで、社長の息子のアナンダは日本の貿易会社で働いていたこともあり日本語も話す。兄貴とはたいへん仲がよいのだが最近支払いが滞っているという。

  僕はなんと「借金の取立人」としてスリランカに舞い降りることになった!

  スリランカは当時(今もかな?)内戦状態で北部のインド系民族が「タミール解放の虎」という武装集団を組織して時折首都のコロンボ(正式名はスリジャヤワルダナプラコッテというジュゲムのような名前)を攻撃していた。
  僕がインドのトリヴァンドラムから飛行機でコロンボの空港へおりた時も3日前に「タミール解放の虎」がロケットランチャーで軍用機を5機ほど破壊したばかりで、滑走路の脇には黒焦げになったグチャグチャの鉄の塊がいっぱい落ちていた。

  大丈夫かいなこの国は?

  アナンダをたずねた僕はそう言うと、彼は「大丈夫3日前に攻撃があったから3ヶ月は安全や」だって。
  アナンダの父上が社長であるアルナシリ・トレーディングはスリランカではテレビでコマーシャルもやっているほど有名な会社である。いったい何をしている会社かというと、先に書いた中古の日本製の車や電化製品を自社で修理し、それを店舗で販売している。中古品の販売業といってバカにするなかれ。スリランカではインド製の新品より、日本製の中古の方が高く売れるのだ。故障が少なく性能がよい日本製神話がこの国では圧倒的なビジネスとなるのだ。
  そんなわけでアルナシリファミリーの家はとても大きい。塀は刑務所のように高く、広い庭には夜中でもライフルを持った警備員がウロウロと歩く。駐車場には日本製のランドクルーザーやスポーツカー(こちらは新品で購入されたという)がずらりと並び、広い応接間は絢爛豪華な調度品で満たされていた。
  僕には豪邸の中の日当たりの良い一室が与えられた。朝になると召使がベッド際に現れ、淹れたてのセイロンティーを差し出す。僕はベッドで上半身を起こしながらふくよかな香の紅茶をいただき、ゆっくりと寝ぼけた頭を現実に調整する。なんだか貴族みたいな目覚めなのだ。

  オレ貧乏旅行してたはずやのに、いったいどうなってんの?

  寝ボケも覚めて、しばらくすると再び召使が現れ「食堂に朝食の用意が出来てますので、どうぞ」と言う。ふらふらとダイニングにおもむくと大きなテーブルに30種類は超えるであろう小皿がいっぱい。エスニックに盛られた料理が僕を待ち構えていた。席につくと先の召使がビールをトクトクトクと注ぐ。

  まだ朝やで! 今から酔えというんかい。

  朝からビールをしっかり飲んだ僕は(3杯ほどオカワリしてしまうのですが)朝日を浴びながらフニャフニャになって昼までベッドで寝転ぶ。すると再び召使が現れ「アナンダ様がお昼ご飯をお誘いです」と言う。車に乗せられ会社近くのレストランで降ろされた僕はそこがお昼のパーティー会場であることに気づき唖然とする。
  アナンダと社員が昼食時にビールやジンをクイクイ飲みながら大層に酔っ払って盛り上がっている。もちろん僕もグビグビ飲んで、それは日中から最高潮ということなのである。
  それだけで終わりではない。夜になればパーティー夜の部が待ち構えていて、再び僕は酒を飲みまくり、エビフライを食べまくるのだ。
  そんな日々がいったい何日続いただろう? 朝から晩まで酔っぱらっていて楽しかった。しかしアルコールが体から抜けることはなく、常にふらふら状態ということでもあった。

  もちろん自分が「借金取立人」であることなどすっかり忘れていた。

  監禁状態にも近いといえる異国のパーティー地獄で僕はいったいどうなってしまうんだろう。

  <つづく>